集合の濃度まとめ

はじめに


この記事の目標は,


\mathbb{R}上実数値連続関数全体の集合の濃度は,\mathbb{R}の濃度と等しい」


を示すことです.
この主張を示すには,集合の濃度に関する基礎的な主張をある程度網羅する必要があり,理解の目安になるのではないかと思います.

ただし,\mathbb{R}上実数値連続関数が有理数での値によって決まることは,濃度の話から反れるので既知とします.

証明の流れ


\mathbb{R}上実数値連続関数全体の集合をXとします.
Xの元は,有理数においてとる値によって決まるので,
\[|X|=|\mathrm{Hom}(\mathbb{Q},\mathbb{R})|\]となります.
ここでキーとなる命題が2つあります.

命題1

\[|\mathrm{Hom}(A\times B,C)|=|\mathrm{Hom}(A,\mathrm{Hom}(B,C))|\]

命題2

\[|P(\mathbb{N})|=|\mathbb{R}|\]


命題1は簡単に示せます.命題2を示すには少し準備が必要です.
以下で順に述べていきます.

命題1の証明


証明

f\in\mathrm{Hom}(A\times B,C)に「各a\in Af(a,\cdot\,)\in \mathrm{Hom}(B,C)を対応させる写像」を対応させる写像\phi\colon\mathrm{Hom}(A\times B,C)\to\mathrm{Hom}(A,\mathrm{Hom}(B,C))とします.
また,g\in \mathrm{Hom}(A,\mathrm{Hom}(B,C))に「各(a,b)\in A\times Bg(a)(b)\in Cを対応させる写像」を対応させる写像\psi\colon\mathrm{Hom}(A,\mathrm{Hom}(B,C))\to\mathrm{Hom}(A\times B,C)とします.

このとき,
\begin{align}
&\psi(\phi(f))(a,b)=\phi(f)(a)(b)=f(a,b)\\
&\phi(\psi(g))(a)(b)=\psi(g)(a,b)=g(a)(b)
\end{align}となるので,\phi,\psi全単射であり,命題が示せました.\Box

ちなみに,集合Aから集合Bへの写像全体の集合をB^Aと表せば,命題1は
\begin{align}
\vert C^{A\times B} | = | (C^B)^A |
\end{align}となり,集合の濃度について指数法則が成り立つことを主張しています.

命題2の証明


命題2を示すには補題2が必要であり,補題2を示すには補題1が必要です.

補題1

任意の無限集合Aは,可算な部分集合をもつ.

証明

Aの有限部分集合全体の集合をFとします.Aは無限集合なので,任意のB\in Fに対して\overline{B}\neq \varnothingです.
よって,選択公理により,選択関数\displaystyle f\colon F\to \bigcup_{B\in F}\overline{B}をとることができます.
a_0=f(\varnothing), a_1=f(\{a_0\}),a_2=f(\{a_0,a_1\}),\dotsとおけば,a_n\{a_0,\dots ,a_{n-1}\}に含まれないので,\{a_n\}に重複はなく,可算集合となります.\Box

無作為に無限個の元をとらないといけないので,選択公理は回避できないように思います.

補題2

任意の無限集合Aに対して,
\begin{align}
\vert A| + |\mathbb{N}| = |A|.
\end{align}

証明

Aが可算なときは簡単に全単射が作れます.
Aが可算でないときは,まず補題2を用いてAの可算な部分集合Bをとると,|B|+|\mathbb{N}|=|B|となります.
よって,|A|+|\mathbb{N}|=|A\cup\mathbb{N}|=|(A\setminus B)\cup(B\cup\mathbb{N})|=|(A\setminus B)\cup B|=|A|となり,主張が示せました.\Box

それでは命題2の証明に入ります.

命題2

\[|P(\mathbb{N})|=|\mathbb{R}|\]

証明

基本的には,\mathbb{R}(1,2]の濃度が等しいことを利用して,実数の2進数展開を用います.
P(\mathbb{N})を,有限部分集合の全体P_1,補集合が有限集合である部分集合の全体P_2,それ以外の部分集合の全体P_3に分けます.(1,2]の2進数展開と対応するのはP_2\cup P_3です.

P_1の濃度は,要素の個数を基準にして考えると,S=\mathbb{N}\cup(\mathbb{N}\times\mathbb{N})\cup(\mathbb{N}\times\mathbb{N}\times\mathbb{N})\cup\cdotsの濃度と等しくなります.
そして,この集合は,(a_1,a_2,\dots,a_n)\in Sの各成分の和を基準にして並べることで,\mathbb{N}との全単射を作ることができます.
したがって,|P_1|=|\mathbb{N}|です.

よって,補題2から|P(\mathbb{N})|=|(P_1\cup P_2)\cup P_3|=|P_2\cup P_3|=|\mathbb{R}|となります.\Box

証明

この記事の目標である,

\mathbb{R}上実数値連続関数全体の集合の濃度は,\mathbb{R}の濃度と等しい」

を示しましょう.命題1,2を用いれば簡単に証明できます.

証明

\begin{align}
\vert X|&=|\mathrm{Hom}(\mathbb{Q},\mathbb{R})|\\
&=|\mathrm{Hom}(\mathbb{Q},P(\mathbb{N}))|&\\
&=|\mathrm{Hom}(\mathbb{Q},\mathrm{Hom}(\mathbb{N},\{0,1\}))|\\
&=|\mathrm{Hom}(\mathbb{Q}\times\mathbb{N},\{0,1\})|\\
&=|\mathrm{Hom}(\mathbb{N},\{0,1\})|=|\mathbb{R}|
\end{align}