集合列の極限
Introduction
数列の極限のように,集合列にも極限を考えることができます.
実数列が収束することは,その上極限・下極限
\begin{align}
& \overline{\lim}\limits_{n \to \infty} a_n := \lim_{n \to \infty} \sup_{k \geq n} a_k, \\
& \underline{\lim}\limits_{n \to \infty} a_n := \lim_{n \to \infty} \inf_{k \geq n} a_k
\end{align}が一致することと同値でした.
これを用いると,実数列の上極限・下極限に類似した概念として,集合列の上極限・下極限が自然に考えられ,集合列の収束を定義することができます.
まず,実数列の上極限・下極限の定義に登場する実数の上限・下限が,集合においてどのような概念に対応するかを考えてみましょう.
実数の上限・下限から集合の上限・下限へ
実数の集合に対し,その上限・下限は,
\begin{align}
\sup A &:= すべてのa\in A 以上の数のうち最小のもの\\
\inf A &:= すべてのa\in A 以下の数のうち最大のもの
\end{align}と定められました(有界な集合に対してこれらがつねに存在することは,実数の公理の一つです).
ここで,「以上」「以下」はもちろん実数の順序に関するものですが,これを集合の包含関係に関する順序に置き換えてみましょう.
すると,「集合以上の」は「集合を含む」,「集合以下の」は「集合に含まれる」と言い換えられます.
したがって,実数の集合に対する上限・下限は,集合族に対して
\begin{align}
\sup A &\leftrightarrow すべてのS \in X を含む集合のうち最小のもの \\
\inf A &\leftrightarrow すべてのS \in X に含まれる集合のうち最大のもの
\end{align}と対応します.これらはに他なりません.
つまり,順序を通して,実数のは,それぞれ集合のに対応することがわかりました.
実数列の極限から集合列の極限へ
実数の上限,下限が集合の言葉に置き換えられることを述べました.ではこれを用いて,実数列の極限の類似として集合列の極限を定義しましょう.
実数列の上極限・下極限の定義は以下の通りでした.
\begin{align}
& \overline{\lim}\limits_{n \to \infty} a_n := \lim_{n \to \infty} \sup_{k \geq n} a_k, \\
& \underline{\lim}\limits_{n \to \infty} a_n := \lim_{n \to \infty} \inf_{k \geq n} a_k.
\end{align}ここで,のときなので,
\begin{align}
& \overline{\lim}\limits_{n \to \infty} a_n = \inf_{n \geq 0} \sup_{k \geq n} a_k, \\
& \underline{\lim}\limits_{n \to \infty} a_n = \sup_{n \geq 0} \inf_{k \geq n} a_k
\end{align}が成り立ちます.つまり,実数列の上極限・下極限はのみで表すことができます.
そこで,上述のとの対応を用いて,集合列の上極限・下極限を次のように定めましょう.
\begin{align}
& \overline{\lim}\limits_{n \to \infty} S_n := \bigcap_{n \geq 0} \bigcup_{k \geq n} S_k, \\
& \underline{\lim}\limits_{n \to \infty} S_n := \bigcup_{n \geq 0} \bigcap_{k \geq n} S_k.
\end{align}これらが一致するとき,この集合をと表し,集合列は収束するといいます.
集合列の上極限・下極限とは何か
さて,集合列の極限が定義できましたが,単に記号を並べただけで,なんだかわかりづらい気がします.
これを直感的に捉えてみましょう.
まず,集合列の上極限
\[\overline{\lim}\limits_{n \to \infty} S_n := \bigcap_{n \geq 0} \bigcup_{k \geq n} S_k\]を日本語で言い換えると
\[「どんなn\geq 0 をとってもあるk\geq n が存在してS_kに含まれるような元の全体」\]さらに言い換えれば,
\[「無限個のS_kに含まれる元の全体」\]となります.
同様に,下極限
\[\underline{\lim}\limits_{n \to \infty} S_n := \bigcup_{n \geq 0} \bigcap_{k \geq n} S_k\]を言い換えれば
\[「あるn\geq 0 をとればどんなk\geq nに対してもS_kに含まれるような元の全体」\]より噛み砕いて言えば,
\[「あるnより先ではつねにS_kに含まれるような元の全体」\]となります.(あるいは,
\[「有限個のS_kを除いてすべてのS_kに含まれるような元の全体」\]とも言えます.)
このように言い換えてみれば,あるより先ではつねにに含まれるような元は,当然,無限個のに含まれますから,
\[\underline{\lim}\limits_{n \to \infty} S_n \subset \overline{\lim}\limits_{n \to \infty} S_n\]が明らかです.
集合列の極限とは何か
集合列の上極限・下極限の解釈について述べました.
次はその2つが一致するとき,つまり集合列が収束して極限をもつときを考えましょう.
集合列が収束するのは
\[\underline{\lim}\limits_{n \to \infty} S_n \supset \overline{\lim}\limits_{n \to \infty} S_n\]が成り立つとき(逆の包含は上述の通り),つまり
\[ある元が無限個のS_kに含まれるならば,あるnより先ではつねにS_kに含まれる\]ときです.
一方で,任意の元は,無限個のS_kに含まれるか有限個のS_kにしか含まれないかのいずれかであり,有限個のS_kにしか含まれないとは,すなわちあるより先ではつねにに含まれないということです.
以上をまとめると,集合列が収束するのは,
\[任意の元が,あるnより先ではつねにS_kに含まれるか,あるnより先ではつねにS_kに含まれない\]をみたすとき,ということがわかります.
そしてこのとき,
\[「あるnより先ではつねにS_kに含まれるような元の全体」\]が,その集合列の収束先ということになります.
以上のように考えれば,集合列の極限が自然なものとして捉えられるのではないかと思います.
具体例を挙げれば,
\begin{align}
\forall k \geq 0,\ S_k\subset S_{k+1} &\Rightarrow \lim_{n\to\infty}S_n=\bigcup_{n\geq 0} S_n,\\
\forall k \geq 0,\ S_k\supset S_{k+1} &\Rightarrow \lim_{n\to\infty}S_n=\bigcap_{n\geq 0} S_n
\end{align}のようになります.
ちなみに,集合列の極限は,順序と上限・下限の存在のみを仮定して定義したので,そういう対象なら同様に極限・収束が定義できるはずです(多分).
集合論の教科書や測度論の初歩で集合列の極限を見てギョッとした人もいると思いますが,噛み砕けばさほど難しいものではないということが伝われば幸いです.